ついに来た、機械設計のモノづくり革命

最近、新型コロナで閉塞感がある世の中ですが、技術は着実に進化しています。

電気分野では、半導体・ディスプレイといった革新的な技術が、ソフトウェア分野では、CGや人工知能といった革新的な技術が、数10 年続いています。

これらにより、家電、通信、エンターテインメントに至るさまざまな分野が、10年前とは様変わりしてしまいました。

しかし残念ながら、機械技術の分野では、目立った革新はありませんでした。

20年ほど前には、3D-CADによる設計効率化が進みましたが、それによって、アウトプットである製品への影響はあまりなく、あくまでツールの進化にとどまっています。

マイクロマシンやDMD(マイクロミラー)といったごく限られた分野では革新的な進歩がありましたが、大きな市場形成には至っていません。

ところが最近、機械技術をがらりと変える技術が実用レベルになってきているんです。

それは3Dプリンタ技術。

実は、3Dプリンタって、30年前からある技術で、1990年の湾岸戦争の際、米国で設計した戦車のデータをイラクに送り、イラクに設置した3Dプリンタで戦車を作って戦争する、なんて構想がありました。

当時の技術では、精度の良い3Dプリンタ装置があろうはずもなく、あくまで構想で終わったのだと思いますが、ここにきて安価で高精度な3Dプリンタ装置が出回るようになり、工業化に至っているのは周知の事実です。

機械技術の分野は、μmクラスの加工は、半導体技術やファインプレスといった技術があり、数㎜以上では、切削・板金・ダイキャストといった従来からの技術があるのですが、その間、数100μmから数㎜の間の複雑な加工は、ほとんど空白地帯でした。

そのミッシングリングを埋めるのが、3Dプリンタ。

現在では、数10μmの位置精度で、材料を変えながら積層できる装置もでてきました。

そして意外にも、3Dプリンタの応用が最も進んでいる分野は医療分野。

すでに、人工血管は実用レベルにあり、臨床現場でも使われようとしています。

今では人口臓器を3Dプリンタで制作する研究もさかんに行われています。

もちろん工業分野でも徐々に広がりを見せており、高い信頼性が要求される自動車部品、たとえばBMWの部品にも使われ始めています。

そんな中、日経クロステックが、「ネジやバネが要らなくなったら、機械設計はどう変わる」という挑戦的なタイトルで、3Dプリンタ時代到来を告げています。

この中で紹介されているNature Architectsという会社、HPの紹介事例は、いまだ実用化は遠そうですが、コンセプトとしては、とんでもない破壊力があります。

たとえば材料を変化させながら1部品で作ったヘッドホン。可動部に継ぎ目がないので耐久性も高く、何といっても組み立てが不要。

工業製品の値段は部品点数に比例するといってよく、組み立て不要はまさに革命。たとえば、

30部品で構成される製品があるとすると、30個それぞれを作る業者がいて、資材部がその部品を価格交渉をして仕入れ、それを倉庫に入庫して保管・管理し、組み立てる時にはそれらを出庫し、製造現場に持っていき、製造手順書に従って製造部員がそれを組み立て、品証部がそれをチェックして、梱包、出荷されます。

そしてそれぞれの工程で、何らかの問題が発生する可能性があり、例えば納期通りに部品が入ってこない、受け入れで部品不良があった、製造現場で仕損じがあった、部品はあるのにねじが足りなかった。などなど。

もしこれが1部品だと、それをつくる3Dプリンタ装置のメンテと、装置にセットするフィラメントの管理、そしてその1個に対する製品検査だけとなります。

つまり、何十人という手間が掛かってたものが、たった一人でもできるということ。

しかも製品が小さい場合、ステージ上に何10個も一度に制作することが可能なので、ある程度の量産も一人で可能です。

これは大革命でしょう。

例えばモータの制作は、複雑な形状のコイルを、突起のある金属に巻き付けるのですが、その複雑な形状ゆえ、組み立て作業性か変換効率か、どちらかを犠牲にすることが多いと言われています。

これが3Dプリンタなら、スカスカの銅線の間に形状を積層形成することが可能なので、ぜったいに組み立てられない形状でも、作り上げることができます。

そして、半導体ユニットをモータの中に抱き込んだ形で、配線まで一体形成が可能なので、モータドライバやセンサを本体内に完全に内蔵したモータが作れます。

そして、1㎜単位で材料や構造を変化させ、モータ軸自体に、防振性やカップリング機能を持たせることも可能になるでしょう。

現在の半導体チップのような、小さな範囲の中に多機能・高機能を実現させることができれば、数センチ四方で、さまざまな化学反応を集積できるマイクロプラントも実現できそうです。

このような技術で、1日も早くこの閉塞感を打ち破ってほしいものです。

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